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第160回●2005年12月4日(日)

  「特別支援教育:高知でのあり方」


教室の風景
 今朝の高知新聞に、障害児教育にとって大きなニュースが載っていました。ずっと関心を持って見守ってきた、「高知県における特別支援教育検討委員会」の最終会合で、「高知県は全県的には特別支援学校へ移行しないことを確認した」という記事が出ていたのです。

 ご存じない方には何のことかさっぱり「?」でしょうね。すみません。実は「特別支援教育」というのは国が検討している「盲・ろう・養護学校」を一括した「特別支援学校」へ移行する、という流れです。

 これについての報道では、「中教審の特別委員会は盲・ろう・養護の障害別に分かれている学校制度を改め、複数の障害に対応できる『特別支援学校』(仮称)の設置を求める答申案をまとめた。盲・ろう・養護学校は制度上、2007年春にも特別支援学校に衣替えする。」 というように、特別支援学校への変更が例外なく決定したような書き方をよく しています。

  しかし、各都道府県の特別支援学校の在り方については、地域の実情に応じた設置の検討ができるのです。つまり従来通りの学校も認められるので、盲・ろう・養護学校は特別支援学校に移行するか、今のままでいくのかの選択を行わなければいけないのです。しかし国が法改正も含めて特別支援学校への移行に取り組んでいる中、それに逆らう流れが高知県では起こったのです。

 特別支援学校に変わると、せっかく今の障害種別に特化した教育ができにくくなり、養護学校の生徒達が著しく不利益をこうむるのではないかと私はとても心配していました。というのは、知り合いの障害児の女の子がある県に転校し、そこが特別支援学校制度に変わったため大変な思いをしている、ということをお母さんから聞いて知っていたからです。

 特別支援学校になると、近くの養護学校に通えるという利点があります。しかし、知的も肢体不自由も盲・ろうも同じ教室で学ぶことになるので、肢体不自由児にとっても大変なことが多いようです。

 たとえば若草養護学校では、先生と生徒はほぼ1対1の割合です。これはトイレや食事介助など、マンツーマンで対応する必要があるからですが、相当恵まれた環境です。彼女が転校した先では生徒3〜4人に先生1人、という割合に変わりました。そのため、若草では頻繁に行っていたトイレ介助が難しくなり、おむつに逆戻りしてしまったそうです。

 また、寝たきりの肢体不自由の子供のすぐ側を、知的障害の子供達がバタバタ走り回ります。「いつ踏まれるかと、はらはらする」と友人は心配していました。もしそんな事故があれば、体がきゃしゃな肢体不自由の子供達には大変なことになってしまいます。逆に「走っちゃ駄目よ!」と今までよりも大幅に行動を制御される知的の子供達にも、大きなストレスになってしまいます。

 そこの学校では特別支援学校に変わって1学期のうちに、「やはり今までの盲・ろう・養護学校制が良かった」と、まだ特別支援学校制に変わっていない隣の県に転校させる家庭が複数出たそうです。「いくつも山を越えて、毎日隣の県まで送り迎えするのよ。引っ越した人もいるし。…大変だけど、でもそうしたい気持ちもよくわかるわ」と友人は話していました。

 一般的にあまり語られない特別支援学校のそうした実態を知っていたからこそ、高知県では果たしてどうなるのか?と、とても心配でした。しかし高知県の委員会では、「専門的な立場から児童生徒を支援するため、特定の障害に対応した学校を基本とする」と、特別支援学校へ移行しないことを確認したのです。さすが!それでこそ高知県だ!と嬉しくなりました。よくわかりませんが、こうした流れはひょっとしたら全国的にも珍しいのかもしれません。

  また知的障害の養護学校として、高知市近辺には山田養護学校と日高養護学校がありますが、100人を超える児童生徒がさらに増加傾向にあるため、委員会では高知市やその周辺に新たな知的障害の養護学校設置を求める提言もしたようです。

  それに対しては、こういう考え方もあります。「普通校に空き教室も増えているので、わざわざ別に養護学校を作るのではなく、今ある空き教室を活用して養護学校併設にすれば地域とのつながりも残り、普通学級の子供達との交流も進み、良いのではないだろうか?」

  なるほど、と思いました。それなら費用もあまりかからず、現実的かもしれませんね。県外では普通校の隣に養護学校があり、交流するなどのつながりを持っているところもあるようです。そういうことが真のノーマライゼーションへの一歩なのかもしれません。


 ※ノーマライゼーション= 障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方

 
 
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