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第270回●2008年1月27日(日)

 「広辞苑の誤記 ウラ話」

 1月11日に発売された、岩波書店の国語辞典「広辞苑第6版」の中に、ミスがあったことがニュースで取り上げられました。平安時代の歌人、在原行平の伝説の舞台としている「兵庫県芦屋市」は、正しくは「須磨」が舞台だった、というのです。
  岩波書店によると、昭和30年の初版から50年以上同様の説明が掲載されていたということで、誤記を認め「なるべく早い時期に修正を検討したい」ということです。

 

  さすがは広辞苑、ミスがあったことが大ニュースとして取り上げられるのです。 広辞苑第6版は今月、約10年ぶりに改訂され、予約注文だけで30万部を超え、注目を集めていますから、なおさらのことです。 このことが、話しことばに関心が深い仲間のメーリングリストで話題に上りました。

 その中に私が話しことばのオーソリティーと尊敬している、I さんの驚きの発言があったのです。
「今から30年以上前、高校の現代国語の授業で広辞苑の間違いを探し、みんなで2週間で20数箇所見つけたうちの1つだと思います。あの時のは第2版だったはず。 」

 えええーー!?広辞苑に、そんなにたくさん間違いがあったの!? と思いますよね。内容の権威と信頼性は「広辞苑に載っていた」というのがお墨付きにもなっているくらいの辞典ですから。そういえばI さんは、以前からこう言っていました。「広辞苑を正しいか間違っているかの判定基準にしてはいけない」。

 I さんによると、高校1年の現代国語の授業で 作家でもあった先生が、「広辞苑の項目と天声人語(朝日新聞1面のコラム)は、大学の入試に出ても知らなかった と言えないから見ておくべきだ」とおっしゃったそうです。 「しかし、広辞苑の内容まで信じてはいけない」とも。

 そして、広辞苑のこの説明が間違っている、と例示なさったそうです。 当時の広辞苑は「小口」の、書籍の部位の名称に使った場合の説明が違っていたそうなのです。 他にもけっこう誤記が多いと言われ、探してみるとひと月ほどでそれだけのミスが出たのだとか。

 これを読んで、私はいたく感心してしまいました。物事の判断は自分で行いなさい、と教えられた先生。そして広辞苑を実際に検証していき、2週間で20数箇所もミスを見つけ出した優秀な高校生達。それ以後は「広辞苑に出ているから」と聞くと 「それは合っているのかな」と反応してしまうようになった、とか。

それを聞いて、質問したくなりました。
「I さん、そのミス、教えてあげなかったのですか?」

 「高校の先生が初版で気づいた小口なども指摘したのに、第2版で直っていないと 言っていました。まして、高校生が愛読者カードなど出しても、読んで対応するつもりなどなかったでしょう。当時、斯界(しかい=その道)の有力者であった新村 出(しんむら‐いずる) に違っていると言える人がいなかったのかもしれません。」 (言うまでもなく、新村 出は、「広辞苑」を 編纂した国語学者です。)

 「そういえば10代のころは、ミスプリントなどがあれば必ず連絡していました。しかし他の書物を含め、某書店からは次に反映しますなどの報告やお礼をもらったことはありません。正誤を送ると返事をくれた編集部もあるのですけど」 と I さん。

「第3版でほとんどは直ったはずなので、今回のは例外かもしれません。でも見つけた部分が直ったかどうかは、 興味がないのでいっさい検証していません。 広辞苑は2版の後も、2版改訂版、3版、4版、5版と、一応持って います。たぶん今回の6版も買うでしょう。 最新の記述を確認しないと、『広辞苑のこれは間違っている』とは 言えないのでね。」

 すごいなあ、I さんのこのオトナの態度。こだわりと淡泊さのバランス、そして知的探求心。ちなみに、広辞苑をこんなにたくさん持っている I さんは国語学者ではなく、 まったく別の業界人です。(笑)

 しかしこのことは、重大な示唆を含んでいると思います。カリスマのミスはいさめにくい。
「お客様の声」に、真摯に謙虚に対応しなければミスにも早く気づけない。
  以前このコラムで書いたことがありますが、「私は間違っているかもしれない」と考えることが、
大きな存在になればなるほど重要なのだと再確認した次第です。

 
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