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第413回●2010年11月5日(金)

「共生の社会へ 〜日本理化学工業株式会社に学ぶ〜

(中村 覚)

 先週、高知県中小企業家同友会の創立24周年記念として、ベストセラー「日本でいちばん大切にしたい会社」で、紹介されている、日本理化学工業株式会社の取締役会長、大山泰弘さんの講演があり出席させていただきました。

「日本理化学工業株式会社」については去年コラムでもご紹介しましたが、ダストレスチョーク(粉の出が少ないチョーク)などを製造販売なさっている会社で、ダストレスチョークにおいて、業界ナンバー1のシェアを誇っています。そして従業員73名のうち重度知的障害者が33名、軽度障害者が21名という雇用形態で会社を運営なさっています。

 今回は「企業の存在価値とは何か?働く喜びとは何か? 社員の7割が障害者、50年にわたる実践事例に学ぶ」と題されての講演です。

  日本理化学工業については既に本で読んでいましたので、多少は知っていました。しかし大山さんにお会いするのはもちろん今回が初めて。壇上に上がられた大山さんは、ゆっくりとお話なさる物静かな方で「実は私はチョーク屋になるつもりはなかったのですが〜、兄弟8人の上のほうだったので〜」など、当時を振り返るお話の様子から、気負わず気さくな方だという印象を受けました。

 大山さんは昭和31年の大学卒業と同時に、当時病弱だったお父様に代わり、会社を継ぐことになります。その3年後に知的障害のある生徒2人を養護学校の先生に頼み込まれて、実習生として受け入れました。実習後、
「たった2人だから、なんとか採用してあげてください」という当時の社員さんの言葉を思い返しながら、「2人ということを本当にうちの社員は強調していましたね。この言葉に後押しされての採用でした」と苦笑いされていました。知的障害のある方の雇用は初めての試みだったわけですから、「もし2人という少数でなければ」という意味もあったのではないかと思います。

 この最初に採用なさった時というのは、実は「本人やその親御さんの気持ちを考えると、なんとかしてあげたい」という同情からだったと大山さんはおっしゃっています。しかしその後、一緒に仕事をしていく中で、彼らから色々な気付きをもらい、会社の存在価値そのものも気付くようになったということです。  
そうしてこの後、数多く雇用する中で、大山さんの「熱い思い」と、経営者としての「ビジネス」の両立を目指すべく様々な工夫がなされました。

 知的障害のある方だけで稼動できる生産ラインを考えていく中、もちろん企業として商品の質を落とすわけにはいかない。「ならば今ある力に合わせて、仕事の工程を考える」という発想が生まれました。生産時の材料の計量や、混合物を練る際の時間管理など、これらの工程をシンプルに分かりやすくする工夫をしたわけです。

 まず、材料を量る際には、使用する材料が入っている容器の蓋と、それを計るおもりの色を同じにしました。つまり、赤の蓋の容器に入っている材料を量る時には赤いおもりを使う、同様に青の蓋の容器のものなら青のおもりを使うという具合です。こうすることで作業ミスを防げるわけです。

 実はこのことを思いついたのは、彼らが毎朝、駅から徒歩で出社していることがきっかけでした。横断歩道の信号機の色をちゃんと区別して安全に通勤できているのだから、「色」でできる仕事なら!とひらめいたそうです。

 そして混合物を練る時の時間管理は、これまでのように時計の針を読んでもらうのではなく、砂時計を使用。砂時計であれば、一定の時間を確実に計れるわけです。
 こういった色々な工夫をすることが、雇用と品質の向上につながって行きました。      
そうして現在、工場見学の希望もたくさんあるようです。以前、ハンガリー出身の記者の方がいらした時です。工場を見学後、その第一声というのが「日本は職人文化があるから、字が読めない人でも企業の戦力になるんですね」とおっしゃったそうです。ヨーロッパはマニュアル文化だから、マニュアルが読めないと雇用の対象にならない。つまり知的障害の人は雇用されにくいというわけです。

 この時、大山さんは「職人」と「文化」という言葉を、初めてくっつけて考えてみたそうです。親方が弟子に一対一で技術を教えるのが職人文化。そしてこの職人文化というものは「中小企業の中にこそあるのではないか!」と。    
 人間の幸せとは「人にほめられる・人の役に立つ・人に必要とされる」こと。そしてこれらは全て働くことで得られる喜びなのです。これが障害者雇用を継続している最大の理由です、と大山さんはおっしゃいます。

 そして「働く」ということに関して、こんなお話もありました。
西洋では働くのは労働、つまり苦役と考えます。しかし、日本人は人のために動くことを「働く」と解釈していたのではないか・・・。「働いて人の役に立つ、これが幸せではないかと思います、そうやって人のためにやっていると道は開ける」と。

 このことを以前、作家の村上龍さんにお話したそうです。すると「人のためにやっているとブーメランみたいに自分の幸せに戻ってくるということですね」と言われて、大山さんは「自分の思いを、村上さんがわかりやすく表現してくださった」と、笑顔でおっしゃっていました。 そしてこのことは「企業の存在価値は地域社会にどれだけ貢献できるかで決まる」という大山さんの言葉にも表されています。

  ちなみに村上龍さんは大山さんの著書「働く幸せ 仕事で一番大切なこと WAVE出版」の帯に 「同情ではなく、支え合う。そしてお互いに生きる勇気を得る」と推薦文をお書きになっています。
大山さんはこの著書の中で、『目先のことにのみにとらわれるのではなく、「思い」を大事にしながら地道に努力すれば必ず報われるときがくる。(中略)そして、私に「働く幸せ」を大事にしたいという「思い」を授けてくれたのは知的障害者でした。』と書かれています。

 「誰も排除しない、皆で支え合う、共生社会を日本に!」ということを日本理化学工業株式会社の使命だと思い、大山さんは今、全国をまわられています。

 

 

 
 
 
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