第1036回 「担任の先生の思い出」
12月17日 中村 覚
ちょっと関西弁が入った口調で、上から見下ろしながら、怒るでもなく半ば
呆れた様子で「だから、今日は真っ直ぐ帰れ、言うたやないかぁ。」
高校1年の時に担任の先生から言われた言葉ですが、もう29年も前のことなのに、今も覚えています。担任の武田先生は、上にも横にもどっしりとした体格だったので、私が話をする時はいつも見上げる感じでした。またコワさもあり、体力にあふれた男子生徒を、雰囲気で押さえ込める存在感もありました。年齢は、今、思えば30代から40代だったと思います。
とにかく いつもニコニコで雰囲気の良い先生には見えなかったこともあり(笑)、あんまり関りはありませんでした。
文化祭の日の、帰りのホームルームでのこと。楽しい気分が冷めやらぬ生徒たちを前に、先生はいつものようにちょっと低いトーンで「はぃ、みんな お疲れさん。今日は補導員がいつもよりたくさん出てるから、この後、ちゃんと真っ直ぐ帰るように。」と。 つまり校則で禁止されているような街中にある店に寄ったりせずに、今日はこのまま家に帰っとけよと。
ところが、こうやってあらかじめ注意されていたにも関わらず、たま~に行っていた街中のゲームセンターに、この日つい寄ってしまったのです。ゲームセンターは校則でアウトな場所です。
夢中でゲームをしていると、肩をポンッポンッと叩かれ振り向くと「補導員」の腕章を付けた男性教員が「外に出なさい」と。すぐに外に出ると、先ほどの教員の後ろには、同じく腕章を付けた保護者達もいました。そのまま学校へ逆戻り。
「何年の何組か?」と聞かれていたので、しばらくすると廊下の向こうから担任の武田先生が、のっしのっしとこちらに歩いてきます。これは怒られるだろうなぁ。違反をしているのはわかっていたのですが…。
学校側からすると、良からぬ場所にゲームセンターを指定しているのもわかります。やっぱりこういった所に行くとお金の浪費にもつながります。
でも、私の場合はいつも同じゲームしかしなかったので、1プレイ100円でだいたい30分は遊べていました。1時間遊んでも200円です。しかも1時間ぐらい遊ぶと集中力も切れるので、後はさっさと帰るだけでした。~かと言って、先生にこの事情はわかってもらえないだろうなぁ。
私の前に立った先生は、怒るでもなく半ば呆れた様子で~
「だから、今日は真っ直ぐ帰れ、言うたやないかぁ…」
意外なことに、それだけでした。それが返って、胸を打たれました。
その後も、武田先生からは何も言われませんでした。今思えば、大人な対応をしてくださったと思います。
そんな先生が1年生の終業式の日、みんなへのはなむけとばかりに、黒板に踊るように「努力、努力、努力のみ」と大きく書きました。
この時、先生は多少なり話をして、この言葉に対する想いを語ってくれたとは思いますが、もう今となってははっきり思い出せません。
当時はこの言葉を見て「多分、勉強のことだろうなあ」としか思っていませんでした。でも、今考えると年頃の多感な生徒に多くを語るよりも、言葉少なに「俺の人生観はこうだ!」と向き合ってくれたのではないかと思います。
先月、代表の筒井が出版した「追手前伝説」を読み、自分の高校時代がよぎったのでした。