第1051回 「それ以上の価値を見出す」
4月15日 中村 覚
去年、マジック、手品を見に行きました。テレビでは何度も見たことはありましたが、直に見るのは初めてです。こじんまりとした空間で、お客さんは20人ぐらいだったと思います。至近距離でのショーはどれも新鮮で「おぉぉっ!」と1つの仕掛けが終わる度に、みんなが拍手を惜しみません。
以前、聞いたことがあります。手品を見て「一体、これはどんな仕掛けなのか?」などと考えるのは日本人ぐらいだと。諸外国の方はもっと純粋にショーを楽しむとのことでした。(笑)
私は考えてもわからないので「どんなタネが?」とは思いません。ただ手品を見たら「人生、こうありたいなぁ」と思うのです。手品にはタネ・仕掛けがあるわけですから、あえて数値で言うなら「1」だと思うのです。その「1」をマジシャンが卓越した腕で「3」や「5」、それ以上に魅せる! お客さんもそれに称賛を送る。「1」とわかっているのに。 これ、ものを楽しむ基本姿勢かと。(笑)
ところで、こういったものを楽しむのとは別な角度で、「1」から それ以上の価値を見出す、そんな光景を見ました。
スーパーでのことです。ワゴンセールの中に1個、400円はする子供向けの小さなミニプラモデルが、100円で売られていました。この商品は全7種類。1箱に1体のロボットが入っているのですが、7種類集めると、それぞれを組み合わせてより大きなロボットが完成します。これを小学1年生かそこらの男の子が、目を輝かせながら「絶対に欲しい!」とお父さんにねだっていました。
男の子はお金のことはまだよくわからないようでしたが、7種類買うと大きなロボットが出来上がるのは分かっているらしく、ズラッと目の前に7個並べてお父さんにせがんでいる最中。
普通に買えば400円×7個=2800円。でもワゴンセールのため、全部買っても700円。買い与える側からすると、これはお買い得。しかし、そのお父さんは子供に「今日、これを全部買うなら、今度欲しいと言っていた、〇〇のおもちゃは買えなくなるよ」と膝をついて子供と同じ目線になり「よく考えてね」とゆったりと子供に言い聞かせています。
子供はおもちゃを目の前に、考えに考え、悩みどころです。10分ほど悩んでいました。いやもっと悩んでいたかもしれません。と言うのも私はトイレに行ってまた戻ってきたのですが、まだそのお父さんは気長く待っていましたから。しかし、最後は根負け。これ以上は待てません!私が帰る時間です。(笑)
結局、この親子がどうしたのかは、わかりません。でもこのお父さんが、素晴らしいと思いました。欲しい物を1度に7個も買おうとしている特別感、その重みをワゴンセールの商品をきっかけに子供に考えさせているわけですから。
私だったら、ついつい大人の料簡を当てはめて、全部買っても700円!OK!と安直な結果になっていたかもしれません。1つの出来事から深く物事を考えさせる、これこそ「1」のものを「2」にも「3」にもできるマジックなのかもしれません。