第1079回 「夜の追手前高校にて」

10月28日

以前から行ってみたかった、夜の追手前高校。その機会に数十年ぶりに恵まれました。
現役の追手前校生だった頃以来かもしれません。

実はこのたび、校友会の常任幹事を仰せつかり、初めて役員会に出席したのです。
10月ともなれば、午後6時過ぎには もうすっかり夜のとばりが降りていました。

見慣れた校舎も、夜の顔はまた違います。階段も窓も より強い陰影が刻まれていて、校舎が過ごしてきた長い年月を思わせます。

長い廊下の先は、漆黒の闇に消えています。この光景は、なかなか見られませんよね。

役員会では、追手前高校校友会 特別顧問の井上博史(ひろし)さんが、かつて「質実剛健」と共に校訓として使われていた「醇厚中正(じゅんこうちゅうせい)」の額を修復したと報告なさっていました。「質実剛健」は心身共にたくましいことで、「醇厚中正」は人情に厚く偏りのないことです。この額を揮毫したのは濱口雄幸内閣の折の陸軍大臣、宇垣 一成(うがき かずしげ)氏だそうで、およそ100年はたっていると思われる貴重なものです。(ただし、宇垣さんは校友ではありません)

井上特別顧問は、敬意を込めて「閣下」と呼ばれていらっしゃいます。中央の凛となさった方ですが、実は追手前の校舎が建てられた昭和6年のお生まれで、92歳でいらっしゃいます。追手前の前身である旧制城東中(一中)を5年満了した旧制中学校の最後の卒業生でもあり、青春時代は戦争のまっただ中、激動の時代を歩んでこられました。しかし現在も毎年4月には、新入生に追手前の歴史を語る「追手前学」の講義をなさっている、気概に溢れた方です。

コンサルタントのお仕事柄、頭脳明晰で非常に通るお声。ネクタイやポケットチーフにまでセンスの良さが伺われ、いつ拝見しても「人として、カッコイイ!あんな風に生きたい」というロールモデルでもいらっしゃる方です。

私も声を出す仕事ですので、ご年齢にもかかわらず朗々とした閣下のお声に、「どうしてあんなにも声量や滑舌を保ち続けられるのだろう?」と不思議に思っておりました。伺ってみると閣下は毎日、李白などの漢詩を暗唱していらっしゃるのだそうです。「学生時代に覚えたものを暗唱しているだけだよ」とおっしゃっていましたが、まさに継続は力なり。本当に素晴らしいお手本を示して下さっています。

追手前高校の関係で、今もこうして素晴らしい方とのご縁が紡がれることが本当に嬉しく、誇らしいことです。ありがとうございます。私も頑張らなければ!