第1115回 「遅咲きの人」
7月13日
先日、友人に誘われて「明日を綴る写真館」という映画を見ました。寂れた写真館の店主と若く才能あるカメラマンが出会い、物語が紡がれていきます。日本映画らしい、落ち着きのある良い作品でした。
主演の平泉成さんは、数々のドラマや映画を支えてきたバイプレーヤー(脇役)です。俳優生活60年、今回なんと80歳にして初の主演映画!芸能界では、極めて珍しいことかと思います。遅咲きの人、とも言えるでしょう。
舞台あいさつの時に、ご家族8人からサプライズの手紙を贈られたとネットニュースでたまたま見たのですが、奥様の手紙がとても心を打つものでした。
「『大輪の花 咲かずとも 充つる日々』。色紙に成さんがずっと書いて来た言葉です。脇役としてたくさんのお仕事をしながら必死に自分を奮い立たせて来た言葉です。けれどサインを書く横顔はどこかさびしげで『幸せは家族の総合点だよ』と声をかけ、何とか『充つる日々』をと心掛けて来ました」とこれまでの人生をふり返り、
「成さん。おめでとう!大輪の花咲かせたね!」と祝福のメッセージ。
平泉さんは「大輪の花は咲かせられなかったんです。横でいつも主役を見ながら、悔しかったですね」「本当にうれしいことです。この場に立たせていただくのに60年も経ってしまって、80歳ですからね。長いことかかったなと思いますが、本当にありがとうございました」と頭を下げ…、本当に素敵なご夫婦だなと思いました。
ともすれば若い時に大成功を収め 賞賛を集める人に世間の耳目は集中しますが、その後人生を見誤ってしまうパターンも少なくありません。それに比べて苦労人とも言われる遅咲きの人は 様々な経験から、人生を磨き上げていくように思います。
たとえば、ケンタッキー・フライドチキン(KFC)の創業者として知られるカーネル・サンダース。
この人がKFCのフランチャイズ事業に取り組み始めたのは、なんと70歳目前だったといいます。6歳で父親を亡くし、貧しかった家庭を支えるため10歳から農場で働き始め、40歳を超えるまでに40以上の職業を転々としたとか。
30代後半でガソリンスタンドとカフェを経営しましたが、最初のガソリンスタンドはバイパスが出来たことによる交通量の減少、大恐慌の煽りを受けて倒産。カフェも火事によって焼失してしまい、65歳にして築いてきたものを全て失うことになってしまったのです。
しかしカーネルは、そんな状況でも諦めませんでした。フランチャイズ事業の営業を断られた回数は1000回以上。逆境を乗り越え、希望の見えない状況で、その年齢でも情熱を持ち続けたことがすごいとしか言いようがありません。
やなせたかし先生も、同じです。「アンパンマン」がテレビアニメで大ブレイクしたのは69歳の時でした。
「アンパンマン」を書き始めたのが50歳の時、絵本化されても評判は散々で、漫画の代表作がないまま多くの先輩後輩の活躍を寂しく目で追う日々が続いたそうです。それでも諦めず、ギュウギュウ詰めの満員電車のように才能がひしめく漫画界に諦めることなく立ち続けていたら、ある時、目の前の席があいた。70歳になる直前、アンパンマンのテレビアニメ化の話が持ち込まれ、それから一気にブレイクしたのです。
ともすれば、若い頃に成功し 苦労せずに稼げることを夢見る人は多いと思います。
しかし、数々の逆境があったからこそ人間性が磨かれ、結果的に人生後半で大きく花開く。平凡な人生を歩む私も、そこから学べることは多いと思うのです。