第1122回 「台風時の心理」

8月30日

かつてないほどの迷走・過去最強クラス・ノロノロの台風10号に翻弄されている日本列島。台風は甚大な被害を引き起こすため、ともすれば不安の海に引き込まれそうになります。心を落ち着かせるために、少し距離を取って考えてみました。

私は高知市で育ち、昭和50年代の中学~高校時代には毎年のように大きな台風がやって来たものです。ろうそくや懐中電灯・ラジオの点検を行い、食料品やお菓子を買いだめする。学校は休校になり、停電が起こり、雨戸を閉め切ってローカルテレビの台風特番を見守りつつ、ものすごい風雨を家族でやり過ごす。ある意味 お祭りのような非日常でしたが、床下浸水し、目の前で迫り来る水を見つめた恐い思い出もあります。

台風が近づくと不安になる・恐怖を感じる一方で、不謹慎とは思いつつも なぜかワクワクするような高揚感を覚える。これはどういった心理が働いているのでしょうか?

1. 非日常的な興奮
台風は日頃の生活とはかけ離れた体験ですが、人間はその非日常性に興奮することがあります。例えば戦争も生死にかかわる状況であり、その緊迫感が興奮を引き起こす要因にもなるようです。また災害時には地域社会が一丸となって対応する姿勢が強まり、高揚感に繋がることもあるでしょう。

2. アドレナリンの分泌
興奮や緊張が高まると、アドレナリンが分泌されることがあります。生存本能や体を刺激し、興奮状態を引き起こすホルモンですね。だから、不謹慎ながらもワクワクするような高揚感が起こるのでしょう。

改めて、考えてみると納得です。そうやって、命を守っているのですね。

一方で、よく台風接近時に「川(田んぼ)の様子を見に行く」と言って被害にあったり、亡くなったりする人が後を絶ちません。残念ながら今回もそうでした。

よく言われる心理として、「自分は大丈夫」という楽観的な考えが働くことがあります。

3. 正常性バイアス
これは「正常性バイアス」と呼ばれ、災害や事件などのリスクを過小評価する傾向です。火事の時にも「これくらいなら、まだ大丈夫」「他の人も逃げてないから」とすぐに逃げない人の映像を見たことがありますが、これが災害時に被害に巻き込まれる原因にもなります。

あと「川の様子を見に行く」というのは、「自分がこの問題に対処しなければならない。そのためには、現状を知らなければ」という思いで、水がどこまで迫っているかを把握しに行くという気概が、逆に仇になってしまうのもあるように思います。

私が1998年(平成10年)の高知豪雨の時に、そうでした。夫は仕事で不在、一人で寝たきりの障害児を含め2人の子どもたちを浸水から守らねばならなかったとき、どこまで水が迫っているか見なくてはという思いに駆られたのです。風雨がひどくてシャッターを閉めていたため窓からは見られず、ドアから外に出て確認していました。

結果的に床下浸水ですみましたが、危ないのになぜ、外に出て水を見に行くのか?(なるほど、こういう思いで見に行くのか)と腑に落ちたものでした。

今は気象庁はじめ色々なサイトの【雨雲レーダー】や河川【ライブカメラ】があります。豪雨で身が縮む思いでも、「あと10分後には雨雲から抜けるから大丈夫」「川の水位はこのくらいなのか」とわかれば、少し気が楽になります。安全な情報収集で、対処したいですね。

各地では記録的大雨が続いています。どうぞ皆様、お気をつけくださいませ。
最後に 今回の台風被害に遭われた方に、心よりお見舞い申し上げます。