第1130回 「思いがけない展開」
10月26日
人生って時に、思ってもみなかった展開になることがありますよね…今回はまさにそうです。
先週、追手前高校から電話を頂きました。神戸の大学の先生がいらっしゃって奉安殿などを見学なさり、その際に『追手前伝説』をご覧になって「ぜひ作者の方に会いたいとおっしゃっているのですが」とのこと。ところがあいにくその時は、はずせない用向きの最中でお目にかかることができませんでした。たまたまその日の夜は追手前高校で役員会があり、出かけるとその先生のお名刺を頂け、翌日ごあいさつのメールをお送りしました。
建築史家の川島智生(ともお)先生とおっしゃる神戸情報大学院大学の教授で、追手前高校には建築家 武田五一の研究でこれまで4度来校なさったそうです。その後、先生から「お便りありがとうございます」とご返信を頂きました。
「貴著を図書館で拝見しました。わかりやすくまとめられ、みるべき点は捉えられており、感心しました。私が未見の地階の底の池には驚きました」とのお言葉。プロの方に認めて頂けるなんて大変光栄で、大感激です。
そして先生の学校建築のご講演案内も3つ添付されており、その中の関西(かんせい)学院大学での「ミッション・スクールの建築史」に目が釘付けになりました。面白そう!聞きたい!
ところが日付を見るとなんと2日後、出張の前日。さすがに、明後日では長女の送迎の都合がつきません。JRの時間を調べたのですが神戸までのアクセスが悪く、講演時間には間に合いそうにないと泣く泣くお断りしました。
夫が帰ってからその顛末を話すと「飛行機だったら間に合うんじゃない?」と言われ、調べてみるとなんと1席だけ残っていて、すぐに押さえました。後はもうドタバタで目が回りそうな急展開!そして空路、大阪に向かいました。
電車を乗り継ぎ長い坂を上ると 関西学院大学に到着!まるで外国の町に紛れ込んだような錯覚を覚えます。広いキャンパスにはたくさんの近代建築が並んでいて、それぞれに目を奪われつつゆっくり歩みを進めます。
関西学院は1889年(明治22年)神戸市・原田の森に創立されましたが、キャンパスは1929年(昭和4年)ここに移転してきました。追手前高校の校舎が昭和6年に建築されたので、その2年前なんですね。
そしてこの、時計台です!
なんて美しい…。甲山(かぶとやま)を背景に建つこの時計台については、また次回 詳しくご紹介しますね。
川島先生の「ミッション・スクールの建築史」は、とても興味深い内容でした。先生は近代建築史を40年研究なさり、中でも学校建築がご専門だそうです。
「ミッション・スクール」とは教会が関わり、キリスト教の教えを理念として設立し 運営する私立学校です。だから学内にチャペルが設けられているんですね。大正から昭和の戦前の建物はコンクリートの耐用年数が60年とされているため、1980~90年代に多く取り壊されてしまい、残された物は少ないとのこと。震災でこの建物がこのように崩れたという比較写真もあり、失われた貴重な校舎などのたくさんの写真を見せて頂きました。だから、追手前高校が長期保存計画で改修工事をしているのは重要なんだと再認識しました。
関西学院大学をはじめ、多くの建築を残したヴォーリズについての貴重なお話も聞けました。アメリカから来て、日本で数多くの西洋建築を手懸けた建築家です。様々な学校の近代建築の写真を見せて下さったのですが、「現地の空間の中に身を浸すと 写真ではわからない、見えてくる物があるんです」という先生のお言葉は、身に沁みました。
学校って、多くの人生が詰まった独特な世界ですよね。だから私は、学校建築に惹かれるのかもしれません。
講演後、30名ほどの希望者が、一緒に学内を見学しました。もう、ワクワクが止まりません♪
キャンパスは、時計台を背にして、コの字型に左右対称になっています。入り口から時計台まで土地が東西に傾斜しているので相当高低差があるそうですが、各建物はまっすぐに建っていると伺い、それだけの高い建築技術が当時あったのだと知り、勉強になりました。
川島先生が建物について解説して下さいます。校舎はスパニッシュ・ミッション・スタイルと言われる赤瓦とクリーム色の壁面が使われており、統一感があります。学部ごとに違う建物が使われていて、こちらは文学部の校舎です。玄関アーチがエレガントですね。
休み時間に行き交う大学生の皆さん。とても活気がありますが、講義時間になるとキャンパスはとたんに深閑として、その対比が面白いなと思いました。
こちらは外国人住宅の1つです。東西に並んだ1号館から6号館までを見学しましたが、1929年に移ってきた時に建築されたものだというのに驚きました。メンテナンスがすごく良いため、今でも一部は住宅として使われているほど。
もともとは10棟あり1号館は今も迎賓館として使われています。すべて木造のモルタル塗りで屋根は赤茶色、形も似ていて統一感があります。暖炉があるなど基本的に同じ構造のようですが、玄関ポーチや扉などがそれぞれ違うデザインで、その違いを見るのも面白かったです。
色々と解説なさる、川島先生。建築への思い入れを感じる、とても気さくで温かな方でした。
1918年、原田の森から移設した「ハミル館」。関西学院に現存する校舎の中では、最古の建築物です。献金者にちなんで「ハミル館」と命名されました。現在は総合心理学科の心理学研究室ですので、邪魔にならないようにそっと外から眺めます。
正門付近にある、ランバス記念礼拝堂。就任式や学院のキリスト教行事、コンサート、日曜日ごとに行われる卒業生のための結婚式などに広く用いられているそうです。
こちらは新月池に映る、経営戦略研究科です。まるで童話に出て来る一幅の絵のようですが、それが「経営戦略~」というのがミスマッチで面白いですね。本当に、どこを切り取っても絵になる美しさで、近代建築の素晴らしさを心ゆくまで堪能でき、夢のようなひとときでした。
今回私が一番驚いたのは、関学では学部ごとにチャペルがある、ということでした。大学の教育の特徴として「学生が自ら成長して社会に貢献するとともに、一人ひとりがよりよい人生を送ることのできる力の習得を図ります」とホームページにはあります。
「学生が自ら成長し社会に貢献する」ことは多くの大学で教育目標とされていますが、「一人ひとりがよりよい人生を送ることのできる力の習得を図る」というのは、人としてのあり方も大切にしているということで、素晴らしいことだと思いました。
ご縁を下さった川島先生、そして関西学院大学の皆さま、本当にありがとうございました。次回は、より詳しく時計台を取り上げますので、お楽しみに♪