第1146回「ケーキの切れない非行少年たち」

2月15日

先日、「ケーキの切れない非行少年たち」というベストセラー本を出版された立命館大学教授、宮口幸治さんの講演会が高知健康科学大学でありました。

第2回目の開学記念講演会だったようですが一般にも公開されたため、予約で満席に。当日は大講義室が満席、サテライト(別室)会場2つで視聴と およそ300人が参加したそうで大盛況でした。高知でも、関心の高さが伺えます。

宮口さんは認知機能の視点から、課題のある子どもたちについて語られました。

IQ70以下の子どもは知的障害で全体の2%、IQ70~85以下は境界知能と言われ、14%います。クラスなら5人くらいですが、「障害」ではないので何も対応してもらえません。病院は課題のある子が連れて行ってもらう場所ですが、課題があっても気付かれない子はどうなるかというと、「生きづらさ」を抱え 引きこもりや、非行で加害者になってしまうそうです。

そこで宮口さんは、活動の場を病院から医療少年院に移します。医療少年院というのは「少年院の特別支援学校」で、身体的・精神的なケガや病気、身体障害や知的障害、精神的な情緒不安定を持つ少年が在籍します。

彼らは多くの人が簡単にできることができず、たとえば「丸いケーキを5等分する」といった問題を解くことができないのです。立方体を見て書く絵が、長方形や展開図のようになったりしていることで、彼らの「見る力」の弱さに気付きます。

みんなが、同じように見えているわけではない。私はここが一番の驚きでした。

そういえば幼い子が字を書くとき、「さ」などの平仮名が鏡文字のように左右反転することがありますよね。幼い子は間違っても微笑ましく見守ってもらえますが、だんだんとそうはいかなくなります。たとえば「帰」「遠」などの漢字を小学2年生で習いますが、それがわからないと3年生以降は読めないわけです。そうして、できないことが雪だるま式に増えていく…。みんなが簡単にできることが一生懸命頑張ってもできないなんて、さぞかし辛いことでしょう。

境界知能を持つ、彼らが困る5つの特徴があるそうです。

①認知機能の弱さ(特に見る、聞く力)
②感情統制の弱さ(すぐキレる)
③融通の利かなさ(臨機応変が苦手)
④不適切な自己評価(自信過剰・過小)
⑤対人スキルの乏しさ

宮口さんは「見る力」が弱いなら、「聞く力」も弱いのでは?「書く力」も上げないといけないのでは?ということに気付き、特に①認知能力アップの「コグトレ」というトレーニング法を開発しました。簡単な図形などを見る・書くトレーニングです。見る・聞く・理解、記憶が基本で その上に教科が成り立っているので、認知機能は、学習の基礎体力とも言われるそうです。

そう考えると 昔ながらの積み木を見た通りに積んだり、エンピツで書いたりすることって実は大切なんだなあと痛感しました。

「今はできないこともその人の個性、と多様性を認める時代になって来ていますが、多様性は基本ができて、その先のこと。基本ができなくて困るのは本人。できなくても良い、と決めるのは周囲ではなく、本人だけです」という宮口さんの言葉は、子どもたちに寄り添ってきたからこその強さがありました。