第715回 「初めてのSPレコード」

 

9月23日                                  (中村 覚)

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ここは高知市から東にある、芸西村文化資料館。先月、こちらで戦前・戦後のSPレコードなどを試聴できるという企画展がありました。新聞で読み、興味本位で行ってみたのですが、ちょっと思わく違い。 資料館の部屋の片隅にちょこんとレコードとプレーヤーが置いてあり「ご自由にお聴きくださいね」の形式と勝手に思っていました。

ところが部屋にはスタッフの方が2人。急に緊張し始め、ただの興味本位だけで来てしまったことを後悔し、つい出た言葉が「薄っぺらの知識しかありませんが…」 と卑屈な挨拶。でも係の方は「ちょうど良かった、薄っぺらのがあるよ」と笑顔で迎えてくれました。(笑)

テーブルの上にズラリと並ぶレコードの数々。いや まさか、こんなにもたくさん。私もレコードを全く知らない世代ではないので、レコード自体が珍しいわけではありませんが、これらのほとんどが戦前・戦後の貴重なSPレコードなんです。

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何も知らないに等しい私は、先程の「薄っぺらの」からまず聴かせてもらいました。715-3

ソノシートです。声のえほん 「花咲爺」。本来は絵本を見ながら一緒に聴くのでしょう。花咲かじいさんもこのように漢字表記されると、イメージが違ってきますね。最初に いつぞやの自分が知ってるものを聴かせてもらえて、敷居が低くなりました。(笑)

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続いてこちら。浪曲 「山内一豊の妻」です。浪曲? 浪曲は知りません。「なに? 既にそんな世代が出てきているの?」と係の方に驚かれました。が しかし 説明無用、聴けばわかるさ 若者よ!(笑) ということで、再生開始。何やら浪曲師が山内一豊の妻についての話を、身振り手振りを交えて抑揚つけ語っている感じでした。一体何が良いのかさっぱり…。普通、歌を聴けばリラックスしたり気分が高揚したり。しかし そういったこととは、ほど遠かったです。恐るべし、浪曲。

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次の歌は私からリクエストさせてもらいました。 もし こちらにあれば是非!という思いで「荒城の月」をお願いしたんです。私の知っている数少ない昔の歌の1つです。

するとあら不思議、既に係の方が数枚レコードを手にしていたのですが、その一枚目が荒城の月(藤山一郎)でした。嬉しくも不思議、来て良かった! 再生してもらうと、「これが昔の荒城の月かぁ~」と感じ入りました。レコードの雑音や音の悪さがより情感をあおります。目の前のスピーカーから出ている音も、どっかお山の向こうから聞こえてくる感じ、ちょっと言い過ぎ。(笑)

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他にも、長唄や当時の流行歌、筑前琵琶など知らないレコードがジャンル別に分けられ、とにかくどっさり。一時間ほど色んな歌を聴かせてもらいましたが、私には難し過ぎて 今となっては記憶のかなたです。

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ところで、これは今でいうCDラックのような物だと思います。もちろん初めて見ました。箱自体の重量感もずっしり、当時はかなりの値打ちものだったのではないでしょうか。

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実はSPレコードは、取り扱いが難しかったようです。 なぜなら盤 自体が非常にもろく、衝撃にも弱く割れやすい。そして原料の酸化アルミニウムなどをカイガラムシの分泌する天然樹脂で固めているため、カビが発生しやすいのだそうです。雑音が多いのも材料の粒子が粗いのが原因。品質の良いレコードも作られていたそうですが、戦時中は物資不足のため材料の悪さから、スクラッチノイズ(針を盤に落とした時に出る、シャー、シャーという連続音)もひどかったようです。おまけにレコードが擦り切れやすい などなど。

当時、高価であったはずのSPレコード、ちゃんと保管してあっても、ある日 取り出すと知らない間に、「カビがっ!」「 ひび割れがっ!」こうなると泣くに泣けなかったんじゃないかなと。でも今の人と違って精神性を大切にした時代で、実は物に対する執着心がそれほどなかったのかもしれません。正確に当時の人の気持ちを知ることはできませんが、こういった昔の物に触れると ついつい想像力が刺激され、ロマン?を感じます。