第667回 「土佐弁シリーズ①」

10月17日          (中村 覚)

万々 → 薊野 → 一宮 → 岡豊
いきなり何の羅列か疑問に思われるのではないでしょうか。

実はこれ 自宅から祖母の家までのコースを大ざっぱに地域順に書いたものです。 高知市在住の方なら この4つの地名、すぐに読めると思いますが、これらは県外の方からすると 読めない地名らしいのです。

万々(まま)、 薊野(あぞうの)、 一宮(いっく)、 岡豊(おこう) ですが、パソコンに打ち込み変換して出てきたのは薊野だけでした。暮らしに溶け込むと当たり前のことでも、一歩キョリを置き 違う目線で見ると 「?」 ということがしばしばあります。 こういった地名もそうですが、やはり代表格は方言ではないでしょうか。ということで、今回は方言=土佐弁を取り上げてみたいと思います。

ただ 私も土佐人ではありますが、歴史ある土佐弁をただただ自分の思い込みだけで書くのはイカン(いけない)と思い、今回、参考にさせてもらったのが こちら。 「土佐弁さんぽ」 (著者:竹村義一、昭和60年刊)。 あ行~わ行までの約165個の土佐弁の意味とその例文を収録しています。

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それでは、まずは祖母の思い出とからめて。

【ズツナイ】  どうにもしようのない、つらい せつない。
何か考え事や心配事をしている時、祖母は「もう ズツナイ」 と言っていました。 祖母の様子や言い方から 「つらい」 という意味とわかっていました。

そして祖母は「ズツナイ」以上につらそうな時に使ったのが「エズラシー」でした。めったに言いませんでしたが「もう ○○のことを考えると本当にエズラシー」という具合です。 「ズツナイ」よりもワンランク上の悩みが発生した時です。

【エズラシー】 ひどく困惑した状態の中で、つらい せつない思いをする。

これら「ズツナイ」や「エズラシー」は、言葉の響きや字面にインパクトがあります。 しかし、言ってた本人(祖母)はそれ程 悲愴感たっぷりでもありませんでした。 土佐弁って、表現がオーバーなんですよね。(笑)

次は【ゾーモム】。(注:象を揉む、意味ではありません。 どれだけ握力あっても足りません。)忙しい思いをして気をもむこと。
「ゾー」=「臓」。 心臓や肝臓に始まり、五臓六腑を含む内臓の諸器官を総称した意味。

「たかでたまぁるか、ゾーもんだねえー」
(実に大変だ、気をもんだねえー)

2年程前、関東出身の方と話していた時です。その方が仕事で大変なピンチに陥り、多数の人の協力により 何とか無事に事なきを得たという話題になりました。 私もすっかり感情移入して、「無事に済んでよかった、本当に大変でしたね」という思いになり、瞬間 口から出たのが「それは、本当にゾーモミましたね」。

空気は静まり返ります。 会話を円滑に進めるため、なるべく標準語を使いイントネーションにも気を付けていたのに、「ゾーモム」はないでしょうよ・・・。

では最後に、比較的有名な土佐弁を一つ。なぜ有名かというと坂本龍馬が発した言葉だからです。関連するドラマや映画をご覧になった方は、聞き覚えがあるのでは?

【ホタエル】  ふざけて人を押し倒したりして騒ぐこと。

龍馬暗殺のクライマックス・シーンです。近江屋で 中岡慎太郎と2人でいる時に、部屋のむこうからドタバタと音が聞こえてきます。 まさか自分の命を狙いに来た刺客によるものとはつゆ知らず、龍馬は音のする方に「ホタエナ!(騒ぐな)」とたしなめるように言い放ちます・・・。 そしてその後、ご存知のように33歳で人生を終えます。

土佐人なら子どもの頃、遊んでふざけている時に親から「ホタエナ」「ホタエナサンナ」などと言われた経験があるのでは?

まだまだご紹介したい言葉はたくさんあり、例えば「タカデ タマルカ ヤチガナイ」 「ドレバー コレバー モウビット」などほとんど呪文に近い響きです。
続きは、また次の機会によろしくお願いします。