第893回 「買い占めに走る心理」

3月7日

今回、初めてトイレットペーパー・パニックを経験なさった方は多いでしょう。2月末から、「生活必需品のトイレットペーパーが手に入らなくて、何店も回った」話があふれました。マスク不足を引き金に「トイレットペーパーもなくなる」というデマがSNSで広がり、新型コロナウイルス流行での社会不安が目に見える形となりました。

安倍首相も記者会見で「充分な供給量と在庫が確保されている」などと発表しましたが、マスコミで広くデマであると報道されても買い占めや高額転売は収まりませんでした。空っぽになった店の棚を撮した写真には「逆に不安を煽る。十分な在庫商品を撮すべきではないのか」という報道への指摘もありました。

やっと今週、少しずつ商品が手に入るようになったようです。昨夜はうちの近くのスーパーでも「お一人様1点まで」で、「夜になってもトイレットペーパーが7~8個残ってたから」と夫が1つ買ってきました。(私が買わなかったもので…)

こうしたパニックは、1973年のオイルショックでもありました。スーパーの店頭からトイレットペーパーが消え、主婦たちが商品を求めて殺到する光景を、私もニュースで覚えています。日用品の買い占めや争奪戦の殺気立った様子は、衝撃的でした。

当時は中東戦争による社会不安、それによる原油高騰という事実があり、政府が「紙の節約」を呼びかけたところ、一部のスーパーが「紙が売り切れるかもしれない」と煽ってトイレットペーパーを大量に販売したのをきっかけに、全国でパニックに陥ったのです。多くの消費者がトイレットペーパーの買い占めに走りました。

10年ほど前にネットで、当時のことが別の意味で忘れられない人を見かけました。「あれはもうかった!また、ああいうことがあればいいのに」というコメントです。消費者を手玉にとって!と、怒りを覚えたものでした。そのため今回 目の前に商品が出されていても、少しのストックしかなくても「ああいう輩を喜ばせてなるものか」との反骨心が、私が購入を踏みとどまる原動力になりました。(笑)

多分心理的には、コロナウイルスの脅威で不安やストレスを感じた多くの方が、それを解消するための代償行為として、買い占めに走ったのでしょう。目に見えず、いつまで続くかわからない不安を「お金を払って物を買う」ことで無意識に埋めようとするのですね。それで手っ取り早く心は満たされ、安心します。それは無理からぬことでしょう。

しかもトイレットペーパーは、確実に使える日用品で軽いし、いくつ買っても高くない。これがもしもお米なら、10kgの袋を2~3個も持てませんよね。

現代では、商品の流通にPOSシステムが使われています。スーパーなども在庫を持たず、レジでの商品の売り上げデータからニーズを予測し、すぐに業者から商品を納品してもらいます。そのため 1~2割の人が多く特定の商品を買っただけで、すぐ品切れになってしまうそうです。加えて断捨離などで、家に日用品のストックをできるだけ置かずシンプルな生活をする人も増えていますが、それは「商品はいつでも手に入る」という前提があってこそですよね。

だからこういうトラブルが起きてから教訓となるのは「いざという時のために、少しストックを持って日頃から回しておくことが安心につながる」という基本的なことでした。

心の安定を保つためには、不安な気持ちを解消し安心させることです。震災の後、「絆」という言葉があふれたように、ストレス解消にはふれあいがあると、幸せホルモンと言われるオキシトシンが分泌され、心が満たされます。そういう意味であいさつやコミュニケーション、ゲームなど家族や友人で笑い合える交流は大事ですね。

休校が続いて大変ではありますが、家で子どもをお世話している方々をはじめすべての方々と、この言葉をこれからの希望として共有できればと思います

幸運は、「不運な出来事の姿をして、やってくる。(田坂広志)