第684回 「土佐弁シリーズ④ 生活感」

2月19日              (中村 覚)

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私が学生だった頃、食べ物や場所、特定の人物などを指して「ヤバイ」という言葉は、良くない、危険だ、避けた方がいいなど、マイナスの意味を持つものでした。ところが近頃、「ヤバイ」の意味合いは180度変わり プラスの表現として使われています。何かを食べて とてもおいしければ「ヤバイ」という具合に、賛辞になっています。

次世代が語感の響きに新しい意味付けをして頻繁に使用すれば、いつの間にか世間に根付きます。言葉は生き物と言いますが、まさにそうです。とは言うものの 最初に耳にした時には違和感があったのも事実です。(笑)

こういった言葉の世代間ギャップは、いつの世にもあるのでしょう。以前、叔父から珍しい話を聞いた時に、突発的に 「ウソッ!?」と 声が出ました。すると叔父は「ウソなもんか。」と戒めるように答えました。 私は話の内容を疑ったのではなく、「えぇ、本当にっ!」という感嘆詞的な意味合いで使った言葉でした。同世代なら普通の会話だと思うのですが、叔父は80歳を超えているので、「ウソ」という言葉に対して、私とは認識が違ったのです。「ウソ」は「嘘」で、嘘は言ってはいけないの「嘘」なわけです。

使い慣れた言葉は端的に感情を表現でき ニュアンス的にもバッチリです。多少の世代間ギャップがあっても です。そして、他県の人には わかってもらえなくても。

すっかり前置きが長くなりましたが、言葉のニュアンスなら地域に根付く方言が飛び抜けているのではないでしょうか。~という事で、土佐弁の4回目です。

【だきな】きたない。

だきな部屋や。→「きたない、散らかっている部屋だ」という意味です。整理整頓された状態からはほど遠いわけです。 いつもきれいにしておくのが理想ですが、忙しくてしばらく掃除ができておらず、最近 散らかっているな、(でも また掃除をすれば そこそこ きれいになる。) 部屋なんてのは こういった状態の繰り返しではないでしょうか。

しかし「だきな部屋」となると、掃除ができていなかった諸事情は一切許されず、掃き溜め ワースト1状態が頭をちらつきます。言葉の意味自体は普通なのに、ニュアンスがどぎついのです。友人宅に行って、ちょっと しかめっ面しながら「だきな部屋や」と言えば、友達関係 終われます。(笑)

【もぶれつく】 群がりつく、小さなものが群れている状態。

みかんや柿の木にたくさん実がなっている様を見て「もぶれつく、もぶれついちゅう」と言います。たくさん実っていれば たくさん食べられるわけですから豊かな状態、喜ばしい状態なはず。しかし、それを「もぶれつく」などと言うと、ちょっと どこか悪口? みたいな気も・・・。 土佐の先人達よ、ちょい ひねり過ぎた? でも、わかります。 「鈴なり」なんて目じゃねーぜ、やっぱ「もぶれつく」でしょ。

【ねぶる】舐める。

最近は服の袖で鼻をふく子を見かけなくなりました。同様に口元をねぶって、手のあかぎれのように、口元の皮膚が赤くひび割れている子もいなくなった気がします。かつての私自身がそうでした。意味もなく口元をねぶって、やがてひび割れてきて、口をちょっとでも大きく開けようものなら、皮膚が割れて血が出て 痛い、痛い・・・ 何が面白かったのでしょう、でも なぜか やってました。「そんなに ねぶったら いかん!」冬場、よく怒られたのでした。

3つとも、生活感みなぎる言葉を選んでみました。考えてみれば方言とは、生活の中から生まれてきたので、たくましさも感じられます。ただ残念?ながら、これら3つは ほとんど使われなくなってきています。平成の世にはそぐわないのかな。