第977回 【「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」へよう こそ】~高知県立文学館

10月23日

昭和世代の私たちにとって、駄菓子屋は郷愁を誘う 特別な空間です。
そのタイトルから興味を引かれ、NHK教育テレビのアニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」の世界観が好きになりました。ちょうど今、高知県立文学館で企画展【「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」へようこそ】が開かれています。

子どもから大人までが虜になってしまう児童書「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」。
幸運な人だけがたどり着ける、ふしぎな銭天堂の店主・紅子が勧める駄菓子は、「釣り鯛焼き」「おもてなしティー」など、その人にピッタリのもの。でも食べ方や使い方を間違えると、幸運か不幸か大きく運命が違ってしまう展開に惹きつけられます。シリーズ累計350万部突破の人気シリーズです。

こちらの展覧会は、なんと全国初!高知県立文学館が独自に企画し、一年間かけて準備し、開催されているのです。すごいぞ、高知県立文学館!元々が児童書ということもあり楽しくわかりやすく、でも「さすが文学館」との深みも感じられるものでした。

まず2階の入り口には、銭天堂の店主、紅子さんの等身大パネルが。
紅子さん、身長高すぎ!アニメでも登場人物と比較して、身長180cm以上ではと予想されます。駄菓子屋の店主と言えば、こじんまりしたおばあさんというイメージを覆す恰幅の良さ。(笑)

一歩足を進めると、そこは黄昏時のレトロな路地裏。その奥に、銭天堂が見えます。
(写真はクリックで大きくなります。)この看板たちも昭和のテイストで、凝ったデザインで実にイイですね。そして 店の奥には…紅子さんが。

「いらっしゃいまし。ここは銭天堂。幸運な人だけが見つけられる店でござんす。お客さまのおのぞみ、この紅子さんがきっとかなえてさしあげましょう。」
紅子さんのセリフに、自分も物語の登場人物になった気分に。(笑)

会場には、ふしぎな駄菓子の再現展示や「たたりめ堂」のよどみを初めとするフォトスポット、金色の招き猫たち、作者の廣嶋玲子先生からのメッセージ、作画のjyajya先生の貴重な下絵、この展示のために書き下ろされたイラスト、「銭天堂ふしぎ手帳」がもらえるスタンプラリーなど、盛りだくさん。作者の廣嶋先生も、意気込みが伝わる企画書に胸を熱くなさったようです。

でもやっぱり、まず惹きつけられるのは 作品に登場する夢の駄菓子ですよね。それらが実際に目の前に、ランキング形式で紹介されています。
第1位は、こちら!

「ドクターラムネキット」。具合の悪いお母さんに元気になって欲しくて、5歳の女の子は銭天堂でこのキットを買います。白衣を着てしゃべるメガネをかけると患者の悪いところがわかり、お薬ラムネをあげるとお母さんの病気が治ります。もっと人を助けようと町に出る女の子に、悪意の手が…。事件を乗り越えて女の子がお医者さんをめざすラストは、感動的でした。

これも好きな、第3位の「虹色水あめ」。絵を学ぶ女子高生は友達との間で才能や人間関係に悩んでいたのですが、これを食べると友達も、心が鮮やかに晴れやかになっていきます。しかし…。

この展示は大人目線の角度で見ると、虹色水あめの色が、くすんでいますよね。
しかし、子どもの目線に低くなってみると…

ご覧下さい、鮮やかな色合いになるんです!これって狙っていたのかな?
何枚も写真を撮っていて偶然見つけられたので、とっても幸せな気分になれました。(笑)
そして私が一番「深い」と感じたのは、こちらのコーナーです。

「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」の作品の中で象徴的ともいえるのが登場人物の【選択】。
私たちは登場人物とともに物語を楽しみながら、「自分だったらどうするか」「自分はどの駄菓子が欲しいか」と思考をめぐらし、行動次第で運命は変わることや、思わぬ自分の願望などを発見していくことができます。

会場では「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」を①価値観、②神秘性、③無私(私欲のないこと)、④洒落、⑤欲望、⑥選択、⑦本当の望み、と7つのテーマに分けてご紹介しています。たとえば【価値観】。

ものごとを考えるとき、何を基準にして何を大切に思うか。それは、人それぞれ。(中略)登場人物の自分の価値観と似ている部分を発見して、共にワクワクできるのがこの作品の素晴らしさ。共感へと意識が転じる瞬間です。

この看板を「くるりと回して考えよう」

他人の評価が気になるあなたへ あなたなら、どれを選びますか?

聞き耳グミ 食べるとひそひそ話がふつうの大きさの音で聞こえるようになる。
見定メーター 相手にメーターを向けると自分との相性が一目でわかる。
悪魔あめ 自分に悪意を持つ人間が悪魔の姿に見えるあめ。

これって、今の子ども達にはすごく欲しいものでしょうね。
会場の館長のごあいさつ文にも、こうあります。

作品の魅力として注目したいのが「運も不運も紙一重」「幸運になるか不幸になるかはその人次第」という、登場人物の選択によって運が分かれる点です。(中略)これは「自分で考え、選択することの大切さ」を語りかけてくれる児童文学の根幹を成すものであり、「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」シリーズは子ども達の想像力を育み、一つの価値観が必ずしも正しいとは限らないという多様性を教えてくれる作品といえます。

子ども達がこれから人生を力強く生きていくため、とても大切なことですよね。私も教育現場で若い世代の自己肯定感の低さや自己決定できない悩みをよく聴くので、これらに強く共感したことでした。

最後に。こうした展示では著作権の関係で撮影禁止ということが多いのですが、こちらでは原画はダメですが「撮影OK」のスポットがいくつもあり、子ども達も喜ぶだろうなぁと感じました。

寂しさを癒やしてくれる友だちが現れ、一緒に楽しいティータイムを過ごせる「おもてなしティー」の撮影スポット。誰かと座って写真を撮るのもお勧めです♪