第982回 「それぞれの時に思いをはせて②~中村時計博物館」
11月27日
前回に続き、南国市の中村時計店本店にある中村時計博物館をご紹介します。それぞれの時計のお話が面白すぎて その世界に魅了され、写真を絞るのも一苦労でした。(笑)
これは珍しい、三角柱型の置き時計。日本のもので製作所は不明、大正時代のものです。一つの機械で、三面の針が同時に動くようになっています。高知県安芸市には有名な「野良時計」がありますが、それもこうした造りになっているそうです。
ところで、掛け時計には2個のゼンマイで動くものが多いそうです。上の文字盤には、横に2つ穴が並んでいますが、左側が「時打ち」、右側が「時間」のためだそう。時打ちとは、音で時刻を知らせる機能です。たとえば2時になったら「ボーン、ボーン」と2つ鐘を打つといったものですね。
高級時計の中には、この穴が3つのものもあります。これは重厚な、ウェストミンスター(チャイム)付き置時計ですが、左が「時打ち」、真ん中が「時間」、右が「チャイム」。チャイムはオルゴールのような仕組みで音が出るもので、代表的な曲が「ウエストミンスター」。学校のチャイムの音といえばわかりやすいですね。
上の時計の裏側のフタを開けたところです。機械の下に撞木(しゅもく)があり、オルゴールのように下の金属棒を叩いて音色を奏でます。その響きは実にきれい!癒やしの音色です。通常は「ウエストミンスター」1曲ですが、凝った造りの時計は3曲くらい奏でられるようです。
こちらはホール・クロックと呼ばれる時計。2mほどある、縦長の大時計です。昔はホテルのロビーなどによく置いてありました。(このコラムでも、東京の学士会館の近代建築でご紹介しています。)
時計の下の鎖についている錘(おもり)は下がるので、ある程度の高さが必要なんだそうです。「大きな古時計」の歌でも有名で、グランドファーザー・クロックとも呼ばれています。
「時計の付いた美しい家具」とも考えられていたそうです。裕福なところでは、この時計を家具の材質やデザインと統一して作らせたとか。「大きな古時計」ではおじいさんが生まれたときに大きなのっぽの時計を買ってきたということですが、これには元になった実話があるようです。
100年以上前のイギリスのホテルを、兄弟が経営していた。ホールには大きな時計があったが、弟が病死するとそれまで正確に動いていた時計が遅れだした。そのすぐ後、兄も世を去ると その時刻に、90年以上動いていた時計は止まってしまった。
それを聞いた作詞家が「おじいさんの時計」という歌をアメリカで1876年に作ったそうで、日本では戦前の1940年にリリースされました。「百年休まずにチクタク、チクタク」とあるように、一週間に1回程度 錘(おもり)を巻き上げることで停電でも止まらず、長期間動くのだとか。しかし錘はこちらのもので1個5~6kgと重く、その負荷が歯車にかかるそうです。だから定期的な手入れが大事なんですね。
その他、懐中時計や腕時計も世界の名品と言われるような時計が数多くあり、時計好きな方は見飽きないことでしょう。
で、私はというと…人生で見てきた身近な時計も、実に面白かったんです。
和室にはたくさんの柱時計と置き時計がありました。
私にとって柱時計は、昭和に亡くなった「おばあちゃんの部屋」の時計です。
ボーン、ボーンと鳴る柱時計を背に和服で微笑むおばあちゃんを思い出し、懐かしさで一杯になりました。
そして、この手前の黒い時計。 昭和40年代初め頃、一家に一個だけこの時計が床の間にありました。小学二年生だったか、時計の勉強で学校に持って行ったら 男子が机にぶつかって落ちて壊れてしまい、とても悲しい思いになったことを思い出しました。
それぞれの時計にそれぞれの時があり、思いをはせることでちょっとした時間旅行をしたような…。色々とノスタルジーに浸れた、貴重なひとときでした。
最後にお土産として、珍しい30分計の砂時計を買いました。デスクワークをするとき、1回30分以上の座りすぎを防ぐため、毎日活用しています。
最後に、中村さんの時計愛あふれる言葉をご紹介させて下さいね。
「当店のお客様はそれぞれに想いを持って時計を直しに足を運んでくださいます。
もちろんそれを修理するのが生業なのですが、
その時に聞いたエピソードを思い出しながら作業を進めるのは楽しい時間で
映画でも観ている様な気分になります。」