第1015回 「心豊かな夏の土佐清水にて」
7月24日
今年の夏、楽しみにしていた仕事がありました。初めて土佐清水市で、清水高校の就職講座をご依頼いただいたのです。先生から「清水は遠いし十分な費用もないのですが、講座をやって頂けないでしょうか?」というご依頼を頂いたのが、5月の初めでした。
確かに、高知市から土佐清水市までは車で3時間ほどかかります。
でも以前もコラムで書いた通り、足摺は私にとって子供の頃からの心の故郷。夏の土佐清水と聞くだけで心躍り、喜んでお受けしました。
初めての清水高校。市街地からは車で5分、すぐ横に小さな山と川があり、自然豊かな環境です。全校生徒が百人ちょっとの学校のようで、今回の受講生は全部で8人。少人数だけにのびのびとした生徒たちがとても印象的でした。私は高校生の就職講座を20年以上やっており、東は室戸高校から西は宿毛高校まで伺ったことがありますが、今回「こんなの初めて」と感じることがいくつかありました。
講座の内容は 学校と社会の意識の違い、会社研究、自己分析、言葉遣い、立ち居振る舞い、そして自己PR実践。決して面白い内容ではないのですが、男子は休憩時間に資料を読んで、友達同士で敬語の言い換えなどをワイワイと予習していました。
「すみません、の言い換えってどう言う?」
「お父さん、お母さんは?」「父上、母上!」
いや、違います。(笑)
また午後の休み時間には男子3人が 面接時の椅子への座り方の資料を読んで、
「まず左足から…、ん?」「わからん」
とかやってるので、「こうするのよ」と思わず教えると
「あー、そうか!」とみんなでそろって
「左、右、左」とまるでダンスステップを踏むように練習。
それが見事にシンクロしてるのに、思わず笑ってしまいました。
そこへ女子も加わって「はい、そこを右!」とわざと違うことを言って
シンクロしてた3人がぶつかって、見ていた女子は大笑い。
私も笑ったのですが、そのときの気分は講師というよりも仲間の一人になったようで、楽しくて不思議な一体感がありました。
のびのびとみんなで楽しみながら、新しい学びにチャレンジする。その姿勢が、本当に素敵だなあと心に響きました。だって楽しみながら学ぶのが、一番伸びしろが大きいですから。
講座が終わった後先生が、「みんな、とても素直なんです。でもちょっとふざけている生徒も何人かいて、失礼がなかったでしょうか」と心配なさっていました。
「とんでもない!今の時代、心が不安定になることが多い中、こんなに心を健康に保てているというのは素晴らしいことです。物事を生き生きと楽しむのが自己肯定感のベースになり、生きる力につながりますから」と答えました。先生は嬉しそうに「そんなに褒めて頂くのは初めてです」と笑顔でした。
最後のレポートをにも、生徒たちの素直さが表れていました。
・自分で気づいていない部分をチェックシートで確認できたのがとても良かった。
・今後の人生において大切だと思うので、積極性を持って取り組みたいと思う。
・今日は楽しい一日をありがとうございました。
・皆、集中して話を聞いて頑張っていたと思います。イスの座り方の練習の際、みんな楽しそうにしていて良かったなと思いました。
・今日の講座は試験だけでなく、今や将来に大きく関わってくる大切なことをたくさん学ぶことができた。
そして、多くの生徒が「お忙しい中、講座を開いて下さり本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べていました。他者への配慮ができるというのは、心が満たされているからなのだろうなと感じたことでした。町中でも、おじいさんと少年が立ち話をしていたり、松葉杖の中村に「荷物持ちましょうか」と何人もの方が声がけして下さったりしたそうです。この地域の持つ、人への温かさやつながりが子供たちを心豊かに育てているのだろうと感じました。
高知県の教育の基本理念に「学ぶ意欲にあふれ、心豊かでたくましく夢に向かって羽ばたく子どもたち」というのがありますが、まさにそうだと実感できた、心に残る講座でした。