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ウィークリーN

第156回●2005年11月6日(日)

  「NHKスペシャル:サイボーグ技術が人類を変える」


 写真は2003年に行われたロボット博覧会、ロボデックス2003において披露された技術の1つだ。人の力を飛躍的にパワーアップさせるためのテクノロジースーツだが、その時には実用化はまだまだ先の話だと思っていたものだ。
 昨日新聞を見て、面白そうだなとNHKスペシャル「立花隆 最前線報告 サイボーグ技術が人類を変える」を見た。驚き、かなり衝撃を受けた。
 サイボーグと言うと、子供の頃のSFやマンガで、 身体の一部を機械に置き換えたり、脳が機械と直接つながった人造人間的なものを思い出す。しかし、今それが、まさに現実のものになろうとしているというのだ。

 近年、脳の情報を利用する技術・神経工学分野がめざましく進歩し、その結果、失われた体の機能を機械で補うことがより進化して来た。感電事故で失った両腕の代わりに、「考えただけで動く人工の腕」をつけたアメリカの男性。視力を失ったカナダの男性はビデオカメラで撮った映像を直接脳に送り、光を得ている。医療・福祉の分野では、すでにサイボーグ技術によって失われた人生を感動的に取り戻し、今までの人類が体験したことのない新たな感覚を得ている人々がいるのだ。

 中でもインパクトがあったのは、 生きたネズミの頭に電極を刺し、ネズミの頭の中から取り出した電気信号で直接機械を動かすという実験だ。
 まず、ネズミが前足でレバーを押すと水が出てくる仕組みを作る。水を飲もうとしてレバーを押す時の、脳の電気信号を記録する。 次に押すと水が出る回路を切り、脳にさした電極から電気信号を機械に伝えられたら、レバーを動かさなくても水が出てくるようにする。
 つまり「思っただけでネズミは水を飲むことが出来る」ようにしたのだ。すると次第にネズミはレバーを押さずに水を飲み始めるようになる。「脳の指令だけで外の機械を動かすことができる」ようになったのだ。

 もっとネズミが賢ければ「なぜ思っただけで水が出るのか?」と悩むところだろうが、そこまで賢くないので、ただ状況に慣れてそんなもんだろうと思うようになったらしい。要するに動物でも人間でも、考えるだけで外部機器を動かせるようになるということだ。つまり、誰でもサイコキネシスを持つ、超能力者になれるわけだ!その応用範囲は無限に広い。

 もし福祉機器に使えば、従来ベッドの上から一歩も動けなかった四肢完全麻痺の患者が自分で起きたり食事ができるばかりか、電動車椅子の運転も、電話も、コンピュータの操作だってできるようになるということを意味する。ただ「こうしたい」と考えるだけで、それができるようになるのだ。なんてすごい!

 これは大いなる福音であるとともに、とんでもない地獄に人類を突き落とすバケモノでもある。現代社会では、世界中ありとあらゆるものがコンピュータによって制御されている。脳とコンピュータを直結させることが出来れば、世界中のものを考えただけでコントロールできるということになる。考えただけで、核ミサイルだって発射できるのだ。空恐ろしさを感じずにいられようか。

 上の実験とは逆パターンもある。ロボラットと言って、外からの指令が送られる電極が埋め込まれているネズミだ。生きているネズミの動きを、人間がコンピュータで操れるのだ。「右、左」とパソコン操作通りにネズミが動くのだ、これはもう「生きたゲーム」と言えるのではないか。迷路を右に行かせたいなら直接脳に信号を送り、指示する。ネズミがその通りに動くと、快感中枢を刺激してやる。脳を操られたロボラットは自由自在だ、生物兵器としては大きな威力だろう。しかし、それをもし人間でやるとどうなるのか?…戦慄を覚える。

 脳深部刺激療法というものも紹介していた。これは、人の脳に電極を刺して病気の異常な電気信号に、電気刺激を加える治療法のことだ。刺激部位を変えると、様々な病気に対応できるらしい。番組では日本のパーキンソン症の女性患者を取り上げていた。脳に直接電気信号を送る機械を埋め込むと、手足が震え一人では歩くこともままならなかった患者が、手術の最中、震えていた手が魔法のようになめらかに開閉できるようになる。2週間後、自力歩行もできるようになり、夫に「こうして一緒に歩けるようになるとは思わなかった」と泣く…。もちろん、これで病気が完治するわけではないのだが、対症療法としては十分な効果だろう。

 驚いたことに、高知でもこの方法での手術が行われていると言う。灯台もと暗し、夫が働いているI病院は四国内でも数少ないその手術を行っている病院と聞いて大変驚いた。

 番組では、様々な病気に効果があると言うことだった。 一緒にテレビを見ていた涼歌は
「私の脳にはこの異常な電気信号ないが?」と聞く。
「うーん、よくわからない。…涼歌はこれ、埋め込みたい?」
「埋め込みたくない。」「どうして?」
「頭が自由に動 きにくそう」
「じゃ、動きにくくなかったらつけたい?」
「うーん…それより『エンタの神様』は?」
おいおい、それよりテレビかよ!彼女にとっては、そんなに大したことじゃないようだ…

 後でその日当直だった夫に 「これは脳性麻痺にも効果があるの?」と聞く。
「昔はこの治療法が一時はやって、脳性麻痺の人でこの手術を受けた人もいるけど。でも、少し良くなってもまた元に戻ったりして、脳性麻痺の治療法としては定着しなかった」と言う。
「ちなみに、涼歌の脳性麻痺のタイプには効果はないよ。」そう聞いて、嬉しいような悲しいような、ちょっと複雑な気分だった。
 なぜ嬉しいのかって?…だって、障害も含めての彼女の個性は、もう完成されているわけだから。今さらかき乱されたくないっていう気持ちが強いかなぁ。それに、彼女にとってはどうせ大した問題ではないようだしね。

 しかし、サイボーグ技術の発展は空恐ろしい段階に来ている。 それは人類に光をもたらす技術なのか、あるいは、許されざるパンドラの箱なのか。いずれにしろ知ってしまった以上、もう無関心ではいられない。今後とも、関連番組が作られるようなので引き続き学ばせていただきたい、いや学ばなければいけないと強く感じた。

 

 
 
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