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第226回●2007年3月25日(日 )

    子宮ガン疑惑

 

 2週間前、半年に一度の婦人科検診に行った。
検診後、いつもと少し違う先生の態度が妙に気になった。電子カルテの画面モニターの
1台の向きを、見えにくいように斜めにしている。いつもはしないのに、なぜそんなことをしてるのだろう?と違和感を感じた。

 先生がお話ししながら、電子カルテの画面をあれこれ切り換えていく。
その時に、カルテの中のある言葉がちらっと視野をかすめた。

子宮体ガンの疑い」とあった。

子宮体ガン?え、ガンの疑いがあるの?先生はそれには気づかないようで、こうおっしゃった。
「今回、念のためにちょっと別の検査をしておきました。MRIも、もし良かったらどうですか? 」
え、だってガンの疑いがあるんだったらできるだけ早く受けた方がいいんじゃないの?
「時間はちょっとかかるかもしれませんが、今日受けることもできますよ」
「…じゃあ、お願いします」

 
子宮ガンか。確かに、卵巣膿腫の手術も8年前にしたことがあるし、そうなっても何ら不思議ではないだろうなー、と思った。…それにしても電子カルテって、こんなこともあるんだ。私だから良かったものの、あれ見たらめちゃくちゃ動揺する人もいるんじゃないの?
 
  MRIの検査はお昼過ぎからだ。1時間半ほど時間があったので、お昼を食べ、その後病院の図書館に行き、子宮ガンの本を探してみる。
「子宮ガンには子宮頸ガンと子宮体ガンがある。子宮体ガンは、子宮の3分の2を占める子宮の内膜に出来るガンで、比較的、治る確率の高い病気。」とあった。5年後の生存率も72%と、ガンでは高いようだ。早期発見、早期治療が大事だと出ている。としたら、今日検査を早くすませたのは良かったかも、と思う。半年に1回定期検診もしているし、もしそうでも、手遅れって事はないだろう。

 しかし気になるのは家庭と仕事のことだ。もし手術、となったら長女の介護は夫一人では手が回らない。施設にショートステイさせてもらうことになるだろう。母は心配性なので、不眠になるだろうからできるだけ話したくないな。次女は精神的にタフなので、多分夫をサポートしてくれるんじゃないかな。
 さらに、仕事である。今はちょうど新人研修の時期で、4月末まで立て込んでいるが、これはすべてキャンセルしなければならない。その後の仕事は、延期か?その場合、静養期間がどれだけになるかで、延期か中止かなども変わってくる。迷惑をかけないよう、できるだけ早く対処をしなければいけないだろう。

 しかし、私のメインの仕事が医療研修であるのは幸いだ。仮に手術になれば、病院にパソコンを持ち込んで、全部記録をしよう。いっそのこと、コラムでガンだということをカミングアウトしてもいいかも。きっとその体験は無駄にならず、有効に生かせるだろうと、そんなことを考えた。MRIを撮り、病院を後にする。検査結果は 一週間後だ。

 その日の夕方、夫の病院に体調が悪い長女を連れて向かった。長女の検査結果は大丈夫だったが、そこで夫にガン疑惑の話をしたら、さすがにちょっとショックを受けていた。「もしそうなら早期治療をしよう」と話す夫。「もしそうやったら、ここに入れてあげるよ(笑)」と言われた。さすがである。そういえば彼は現在、長期療養病床に勤務しているのだった。「そうやねえ、そうなったら頼むわ」と笑っていられる自分が、ちょっと頼もしくもある。

 現在、うちにインターンシップに来てくれているNくんにも事情を話す。当然驚いていたが、ごく自然に「もしそうでもそうじゃなくても、筒井さんにとってきっと一番いい結果になりますよ」と言ってくれた。そしてこれは私が考えていたことと同じだったので、「そうだよねー」と、意を強くできた。

 不思議なことに、「もしガンだったら」と思っても、動揺はしなかった。というのは、最近読んだ本の中にこういう一節があったからだ。かの良寛和尚が書かれた文章だが、
「災難に遭う時節には災難に遭うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。是はそれ災難をのがれる妙法にて候」とある。厄災を避ける方法とは、執着して抗うのではなく、自然のままにそれを受け入れる、ということなのだろう。

「ガンかもしれない、でもそうじゃなかったらいいなあ」という気持ちだろうか。 考えてみればこれは、「今までよくガンにならずに頑張ってくれたね、ありがとう!」とも言えるわけでもある。そこで、お腹をさわって「今まで元気でいてくれて、ありがとう」と言ってみた。なんとなく、温かいものに包まれ、満たされた気分になった。


 そして1週間後。検査結果は幸い、ガンではなかった。もちろん先生はガンの「ガ」の字も出されなかったけれど、「特に異常はないですね」という言葉に「ありがとうございます」と頭を下げる。これで誰にも迷惑や心配をかけずにすむ、ということが何よりもホッとして、ありがたかった。夫は「助かった」とホッとし、次女は「良かったね」と口で言う代わりに、きれいな花のリースをくれた。(長女には言っていなかった。)

 こうしてこの1週間、色々なことを考えたけれど、これも神様から頂いた貴重な時間だったと思える。いかに自分が周囲に支えられているのかや、「生きているのではなく、生かされていること」の再確認にもなった。
 
 今回、もしガンだったら、後悔するのはどういう事があるか、と考えたことの中に「もうガン保険に入れないこと」があった。で、現在、それについて前向きに調査中である。(笑)

 

 
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