ビジネスマナーの研修で 「身だしなみの重要性」について考えてもらうとき、重要な要素の1つがこの品格です。身だしなみにその職種として必要な品格がないと、信頼が失われてしまうからです。
たとえば、病院受付に行ったら担当の女性が、華美なネイルアートをした指で書類を渡したとしましょう。
それだけでもう、「この人、真面目に仕事をしているの?」と思われてしまうことでしょう。本当は真面目な人だったとしても、そうは見えないこと、それによって与えるマイナスの印象が大きな問題なのです。
言葉に関しても、品格があります。小津安二郎監督など昔の日本映画を鑑賞した時、言葉の美しさにはハッとさせられました。あいさつや何気ない会話などどれも良いのですが、中でも女性言葉は本当にしみじみと、美しい。
「私がお嫁にいったらお父さん、いつかご自分でお炊きになった時みたいに、おこげのごはんを
毎日召し上がるのよ。お父さんがお困りになるの、目に見えるわ」(晩春)
みなさん、この言葉を口に出しておっしゃってみてください。滑舌をしっかり行わないと、ちゃんと言えないのがよくわかりますよね。だから、
はきはきした言葉を話す女優さん達の口元は、きれいです。
A. 「お待ちになりまして?」
「この次お目にかかれるの、いつかしら」
「会ってどうなさるの」
B.「待った?」
「次会えるの、いつかなぁ」
「会ってどうするの」
AとBを 比べてみると、言葉の品格がまったく違います。
発音してみるとわかりますが、言葉の響きが前者は本当に美しい。尊敬語がきちんと使われて、女性言葉特有のまろやかさがあります。それに対して
後者は言葉だけだと、男女どちらが言ったのかわかりません。時代性といえばそれまでですが。もっとも最近はもっと簡素化が進んで、「マジ?」「ウザ」「キモ」なんてレベルもありますね。
言葉は、インフレを伴うと言われます。使っているうちに段々古びて、価値が下がっていってしまうのです。たとえば「貴様」という言葉。漢字からもわかるように、元々この言葉は目上の方に対して尊敬の気持ちを含めて使われるものでした。ところが段々と尊敬の意味合いが薄れて価値が下落し、最近はまったく逆で、男性が相手をののしったり、目下に対して使っているのはご存じの通りです。最近の言葉なら、「超」とか「激」などの言葉が手垢がついてきて、「ギザ」なんて新語が出てくるようなものでしょうか。
もちろん、言葉は段々と変わっていくものです。また日常生活では、気軽な、ざっくばらんな言葉でいいでしょう。
しかし、たまには品格のある美しい言葉を意識してみるのも、言葉に幅ができるのではないでしょうか?丁寧な言葉は「いざとなったら使う」では、案外出てこないものです。
「この言葉を美しく言い換えるとどうなるか、おわかりになります?(笑)」
原節子になったつもりで、こんな風に話してみると、楽しそうですよね。
ひょっとしたら立ち居振る舞いなど、人間としての他の品格も多少なりとも、身につけられたらラッキーですものね。
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