ガンの家族を在宅で介護するというのは、なかなかできることではありません。しかしあえてその道を選んだときの家族の葛藤、対立、悩みなどが、包み隠さず描かれています。
俳人久松静杜氏は生涯で3冊の句集を出したいと望んでいましたが、第3句集は完成させることなく亡くなられました。ゆりさんはお父さまの死後、残された遺作集を
読むうち、「父の遺志を継ぎ、第3句集は私が出版する!」と決心するのです。
物語は2年前の夏、第1子が生まれる前のゆりさんとご家族から始まります。無事お嬢さんが生まれた直後のお父さまの発病、産休明けの出社日にガンであることが判明…。心配し、嘆き、うろたえる家族。告知をするべきかどうか?こういったとき、家族の反応はほとんど同じなのではないでしょうか。脳腫瘍を患い、11年間闘病生活をした私の父の場合もほとんど同じで、当時を思い出し、胸が詰まりました。
結局、作者のご家族は、ご本人の望む通り大変な犠牲を払いつつも、在宅介護を貫き通します。これは、なかなかできることではありません。そのためにご家族は追いつめられていきます。…みなさん、さぞ辛かったでしょうね。
私の父も、作者のお父さまのように気づいたら息が止まっており、いわゆる死に目に会えませんでした。読み進めていくうち、思い出しては目頭が熱くなりました。
しかし、作者と私が大きく違うのは、句集のための未発表の俳句を残されていたことです。作者は大変な苦労をして、句集をまとめ上げます。(私の父は教師でしたが、残念ながらこういう宿題は残してもらえませんでした。)もちろんどんなにか大変だったことだろうと思いますが、同じ娘として、永遠の親子の絆が残せたのはうらやましい限りです。
そして、作者は最後に気づくのです。作者から父へ、最後の親孝行のつもりで書いたのは、大きな間違いであったと。「この本は父から私への、最高の贈りものだったということです。」
夢ありてこその人生カンナ燃ゆ
深く考えさせられる内容なのに、なぜかさわやかな読後感を感じる本。
きっと、作者のお人柄なのだろうと感じました。ぜひ、よろしければ読んでみてくださいね。
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