岩手県宮古市の榎本より、ミニタイガープロジェクトのご報告、第4弾です。
高校球児であれば誰もが憧れる夢の舞台、甲子園。そこにかける思いは全国どこにいても同じだと思います。その遠い遠い舞台への出場切符をかけた、高校野球岩手県大会が今月14日に始まります。
被災した学校や自宅、下宿先などを目の当たりにし、「本当に野球をやっていいのだろうか」「野球なんてやっている場合じゃないんじゃないか」と、一度は諦めかけた夢を紡ぎ直して、大好きな野球に取り組む高校球児たちのもとに、ミニタイガープロジェクトからの応援の気持ちとして、6月某日
ボールを贈りました。
今回贈ったボールは県高野連の公式試合用として指定されている物で、普段の練習用のボールより少し高価な物。試合の感覚をつかむため大会直前になると使用するチームが増え、各店で品薄になるということに加え、家が被災したり親御さんが職を失ってしまったりしている今は購入費の確保も容易ではないことを耳にし、贈呈させていただくことに致しました。 |
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高校球児たちの希望の象徴である「白球」の新品は、湿気を帯びないよう、銀色の紙に包まれています。 |
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一方こちらは、泥だらけで、縫い目がほつれ、中身が飛び出し変形してしまったボール。
被災した校舎の周りのがれきや泥の中から、野球部員達がグローブやボールを懸命に拾い集める姿、先輩から受け継いだ物を大切にしたいと泥を洗い流す様子などは、NHK全国ニュースでも報道され、ご覧になった方も多いと思います。例え使うことが出来なくても、生徒達にとっては、これまでの汗と思い出がしみこんだ一球一球です。 |
このボールをかたわらに置き、練習を行なう宮古工業高校野球部の皆さんのもとを訪ねました。 |
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宮古市赤前地区にあるこの学校は校舎や校庭、部室などすべてが甚大な被害を受けました。校舎は未だ電気も復旧せず、いつ元の学校生活に戻れるのか見通しが難しいまま。二つの他校の校舎を間借りしての学校生活を余儀なくされています。 |
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この日、野球部の皆さんは他校の室内練習場を借りてバッティングやピッチングの練習中。
同校のOBでもあり、電気電子科の先生でもある赤沼監督にお話を伺いました。
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「家や下宿先が全壊、浸水などの被害を受けて避難所から通う生徒もおり、被災から間もなく、練習場所や用具の確保もままならないまま臨んだ春の県大会では、一回戦で10対4で敗退し涙を飲んだ。
その後、たくさんの方から物資の面でも資金の面でも支援を受けて、練習が再開出来るようになった。毎日、練習場所も日替わりで、日によっては授業が終わってから往復1時間かかる他校のグランドまで移動して練習を行なうなど、勝手が違い集中できない不自由な環境の中でも、生徒たちは必死で頑張っている。夏の大会ではどれだけ結果を残せるかわからないが、支援して下さった皆さんに思いが伝わるよう、感謝の気持ちを表すためにも全力で頑張りたい。
自分自身、田老地区の出身で実家も被災し、その様子を見ると正直へこむこともあるが、生徒達の頑張る姿を見ていると、自分も頑張らなければと思う。方々からの支援によって手にすることが出来た新しいボールも、全て練習用に回ってしまい、今の私たちにとって公式試合用のボールはとても貴重な物。本当に助かります。ありがとうございます。皆さんによろしくお伝えください。」と、終始穏やかな口調で話してくださいました。
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そしてキャプテンの鈴木くん(3年生)は、「常に一緒に頑張ろうというチームの団結心は高まっている。皆、震災で無くした物も多かったけれど、精神面でプラスになっていることの方が大きい。支援して下さった皆さんの気持ちに応えられるよう、チーム一丸となって試合に臨みたい。」と話していました。
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「鈴木くんにとって野球とは?」と訊いてみると「・・・うまく言葉になりませんが小さい頃からやっていることなので・・」
と言葉少な。ひと言では表現出来ないくらい、彼らにとっては生活の一部そのものなのだということが語感から伝わって来ました。また、これまで当り前に出来ていたことが今出来るということの重みをしっかりと受け止めていることを感じました。
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一方、こちらは宮古商業高校野球部。自ら宮古高校在学中に甲子園出場を果たし、あの松井率いる星陵高校と対戦した経験を持つ沢田監督のもと、甲子園を目指して頑張っている皆さんです。
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昨年の秋季大会では県ベスト8まで進出。前年度の優勝校と白熱の延長戦を繰り広げたことから、春の甲子園の21世紀枠候補に名を連ねるも、最終的には惜しくも出場を逃しました。今度こそは夢の舞台を目指し、一勝一勝を積み重ねて行きたいと意欲に燃えています。やはり家や身内を失ったチームメイトも多く、震災直後はナーバスにならざるを得ませんでした。また地震によってグランドに地割れが起き、暫くは満足な練習が出来なかったとのこと。しかしたくさんの方の支援によって合宿や練習を再開出来たことに感謝しているということです。
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左からピッチャー山根くん、キャプテン藤岡くん、キャッチャー佐々木くん。(共に3年生)
藤岡キャプテンは「ボールを頂いたことに感謝して練習に励み、夏の大会で一つでも多く勝って恩返しをしたい。自分達が頑張る姿を見てもらうことで、被災したたくさんの人達に勇気や笑顔を与えられるよう頑張りたい」と話します。 |
佐々木くんは釜石市鵜住居の出身。今回の震災でふるさとの街も大きな打撃を受けました。
そして、山根くんの卒業後の夢は「消防士」。震災を経験し、その思いは一層強くなったようです。
それぞれが描く夢に向かって間もなく歩み出し、そして確実に地域の復興のために力を発揮する年代の彼ら。両校の監督のように、将来、地元の後輩たちを指導する立場として活躍する選手もきっといることでしょう。両校の選手達と触れ合ってみて、彼らが口にする「感謝」と「支援に応えるため頑張りたい」という言葉に力強さを感じました。大人への階段を上っている彼らにとって、震災を通じてたくさんの人との繋がりを経験したことは、きっと将来への大きな糧となるのではないかとも思います。
困難を乗り越え、憧れの舞台を目指して臨む大会はもうすぐ。彼らにとって一生に一度の暑い夏が始まります。悔いのないプレーをとのエールを新しいボールに託しました。
今、多くの被災地に同じような高校球児たちがたくさんいることと思います。そして彼らの全力プレーする姿が、若い力に希望を託す地域の人達の心を勇気づけ、心の復興への大きな原動力となることでしょう。
終わりに、ミニタイガープロジェクトにご協力いただいた皆様へ改めて感謝申し上げ、贈呈第4弾のご報告と致します。
(榎本倫子)
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